好きな本を友達に貸して6年くらいたった。
6年前なんて言えるくらい大人になったんだなと思うとうれしくて、少し悲しい。あの時の自分にはもう追いつけない気もする。
そう、それでその本を新宿のブックオフで買い直した。
6年前は本屋さんで新品で買って、教室の自分の机の中に入れていた。
いつもは授業中にパーっと読み、何日かでまた違う本を買うのに、なぜかその時は帯とか表紙がボロボロになるくらいまで読み終わらなかった。
そのボロボロになった本をわたしはクラスの女の子に貸した。
女の子といっても、その子は男の子みたいに髪が短くて、男子みたいだった。
バリバリの体育会で、声も大きいし、苦手なタイプかと思っていたけどわたしはどうしてかその子が好きで、本を貸した。
いまでもその子に会いたいと思うし、いいものを見れば教えたいと思う。
ただその子はあの時みたいに男の子じゃなくてずっと綺麗になったけど、別に何も変わっていなくて、
でも声も大きくないし髪も伸びて、見た目も、ものを考えるスピードも、変わった。でもね、ぜーんぜん何も変わっていないの。
どうしてだろうね、わたしはその子のことがずっと好きだ。
好きな友達に貸した本がその人の元にあるならそれはそれでパーフェクトだしね。
そんなことを思い出しながら、本を買ったからって寄り道をした。
各駅停車に乗って本を読みゆっくり向かおうと思ったら、閉店の1時間につくことになってしまった。
途中の駅で快速に乗り換えればよかったけど、あそこの写真屋さんなら絶対大丈夫。とお店の人の顔を思い浮かべながら文字に目を滑らせる。
気持ち良いのがたのしくて、こころがきゅっとねじれた。
好きなものに触れるとどうして好きな人に会いたくなるんだろう。
あーでもないこーでもないと、喋りたくなるのはどうしてだろう。
このどうしようもない世界を小さくしてぎゅっと抱きしめたくなるのは、なんの仕業なのか。
駅について、フィルムを3本現像に出す。
いまカメラに入ってる分も出しちゃおうかと思ったのに、中途半端に8枚残っている。
悩んでいると、お店の人が「だめです、もったいない。今度にしましょう。」と言ってくれたので、フィルムを巻き上げるボタンを押そうとしていたわたしはハっとした。
欲に突き進もうとしていたところを、パシッと引き戻された感じだ。恥ずかしかった!
逸る気持ちを抑えて、3本で現像をお願いした。
「じゃあちょうどあと一時間くらいでできるので待ってますよね?」
「いいんですか!?ありがとうございます。待ってます!」
わたしは一人で牛丼屋に行ったことがない。
確か。
それで、今日はお腹も空いて気分も良くて、というか気持ちが良すぎて牛丼を食べに行こう!と意気込んでいたのに、今日のうちに写真が見られると思ったら食欲がどっかにすっ飛んで行ってってしまった。
とは言っても、体は腹が減ったと言っているので向かいのマックでポテトを頼んで、食べながら本の続きを読む。
気分がぐわっと盛り上がって、物語に引き込まれそうになった時、その本は突然ページがなくなって。一人「ハッ!」と声を上げてしまった。
ジェットコースターがゆーっくりと坂を登っていき、てっぺんに来たところで急停車した。もうわたしは一本取られたどころの話じゃなくて、ショッキングだった。
それはもうすごい衝撃に感動し、まるで生活みたいに物語が突然終わってしまったことに心が震えた。
膝から崩れ落ち、頭をかきむしることはマクドナルドではできないので、深呼吸を何度もして、それで我慢した。
そんな気持ちを抱えたままマックをでて、向かいの写真屋さんに戻る。
「前よりカメラの調子が良くなりましたね。」
「わーよかった!直してもらったおかげです。ありがとうございました。」
前に来た時、モルトを交換してもらった。
「でもまだちょっと感光してるみたいなんで、補強したほうがいいかもしれないですね。」
「はい、パーマセル貼っておきます。遅くにすみませんでした。ほんといつもありがとうございます。」
「いえいえ!全然大丈夫です。いつでもきてください。」
と、写真を手渡してくれた。
フィルムは機械で現像されて、写真はプリントされたばかりで、暖かかった。
わたしは本当に涙が出た。
悲しいとか嬉しいとかではなくて、どうしてか涙を流さなくてはいけなかったらしい。
電車では音楽も聞かずに写真を何度も何度も見返し、乗り換えの駅を通り過ぎ、戻ろうとして、戻りすぎてしまったりした。
家に帰って、好きな映画を見てさらに気持ちが温かくなり、一人でヘラヘラしていた。
写真について考えたり、写真を見たり、連絡を取ったりして、好きな曲をかけて歌っていた。
あれ、それからどうやってベッドに行ったんだっけ?
忘れちゃった、ほら、本みたいに物語みたいに、ブッツリと1日も終わるんだ。
終わらないと思っていた、小説や映画の中みたいでどこか引いてあった線の上を滑っているみたいだったわたしの生活もいつも間にか終わっていた。
きっともうしばらくわたしの体の上に毎日が乗っかって行くんじゃないかと信じている...頼むよ...頼むからもうあんな気持ちにはなりたくないんだよおう...!
でもちょっと嫌な予感がするんだよなあ。予感って当たるから困るんだ。
あ、もしかしたら、予感に引っ張られているだけなのかもしれない!あぶないあぶない!
ビクビクしてるのが嫌になって、また自分からつらい方に突っ込んで行っちゃうからそれがまた困る。
だけどなんとなく大丈夫な気がする!
と言っておきたい。
だいじょうぶ、だいじょうぶ!
ダメになったら、また写真を撮ってみよう。みんなに会いに行ってみよう。
みんなに会いに来てもらおう。