生活を丁寧に、というか自分のルールを持ってやっている人の跡を眺めていたい。
人が作ったものを見るのが好きだ。
音楽や絵画、お話をなぞっていくのも好きだ。
大きなカンバスに、どんな層で塗られたかわからないような油絵具。
どうやったらこんなものが思い浮かぶんだろうというメロディー。それにさらにギターやベース、ドラムを乗せる。
わたしはすごく憧れて、小さく嫉妬する。
わたしも油絵具をあの小さいナイフのような道具で伸ばして、新しい色を作りたい。
自分の頭から出てくるものを真っ直ぐな気持ちで歌というものにしてみたい。
でも人が作った何かって作品じゃなくてもいい。芸術やアートと呼ばれるものじゃなくても人が作ったものは沢山ある。
知っているメロディーを口ずさむあなたの鼻歌、手書きの文字の形。
洗濯物の干し方、洗い物の重ね方。
お風呂の椅子を決まった場所に置くところとか。わたしは絶対に、生活の跡を追いかけている。
誰かがそこにいた痕跡なんて大それてはいない、コップのお尻のかたちのシミがテーブルについているくらいのもの。
生活にはその人の美学が滲み出る。
はずなんだけど、そうじゃない人もいるみたいでそういう人との生活はつまらなかった。洗い終わった食器についた汚れ。溜まったままの埃、生ゴミの匂いが取れない部屋。新しく始まったこの生活に愛情がないと、言われている気がした。
わたしは食器を洗い直し、埃を払い、ゴミ袋を小さくしてこまめに捨てた。掃除機をかけ、洗濯物を畳み、ご飯を作って、トイレを掃除した。
わたしはありがとうって感謝して欲しい訳じゃなかった。すごく小さなことを共有したかった。
休みの日に窓を大きく開け放って、布団を干し、昼ごはんは何を食べようかって話しながら掃除機をかけて、コーヒーを飲んだカップを冷たい水で洗いたい。
2人でも3人でもいい。みんなでやったらみんなで終わったね気持ちいいねと言いたい。
全てをひとりでやったとしても、あなたの愛の眼差しがあればそれだけでいい。
おろし金で心をすりおろされるような生活から離れられたのに今、ひとりで暮らしていることがもったいないなと思っている。